ありのママ  【美姫さんvs田中さん】

 

美姫さん vs   田中さん

 

仕事からお父さんが帰ってきた。浮かない顔をしてため息をついている。

 

「どうしたの?」と僕が聞くと「気乗りのしない“頼まれごと”をされてな。」とため息交じりにお父さんが言う。「“頼まれごと”って難しいこと?」と僕が聞く。

 

僕がされる、嫌な“頼まれごと”と言ったら難しいことだ。

 

「お父さんにじゃなくて、美姫さんになんだ。」とお父さん。すると「私に?なんの“頼みごと”?」と美姫さんが言う。

 

「会社の2つ上の先輩で田中さんっているだろう。」とお父さん。「田中?」と美姫さんが首をかしげる。「ほら、新人いびりの大好きな人。」とお父さん。「あぁ。給料泥棒ね。」と美姫さん。

 

「なんで、その田中さんは給料泥棒なの?」と僕が聞くと「仕事が新人いびりだからだよ。」と美姫さん。

 

僕は意味が分からずお父さんを見る。

 

「田中さんはね、いつも仕事をほとんどしないんだよ。業務でもない新人いびりしかしないから、給料泥棒ってわけ。」とお父さん。

 

僕は大人の世界は分からないから、働かなくても給料がもらえるの?と思ってしまう。

 

「で、その給料泥棒が私に何の用事?」と美姫さん。

「田中さんが住んでいるマンションの隣の敷地に大きなマンションが建つみたいなんだよ。それで、そのマンションが建つと嫌だからどうにかしてくれってお願い。」とお父さん。

 

しばらく美姫さんは考えて「いいよ~。」と微笑みながら言った。その返答に目をパチクリするお父さん。「いいのか?美姫さん。」とお父さん。

 

「どうにかすればいいんでしょ?」と美姫さん。

「そう、どうにかしてほしいって。大丈夫か?美姫さん。」と心配そうなお父さん。

 

それからしばらくして、お父さんの話を僕が忘れてた頃に「美姫さん、田中さんが田舎に帰ったよ。」と仕事から帰ってきたお父さんが言った。

 

その言葉を聞き「おぉ、ようやく給料泥棒の“願いごと”が実を結んだね。」と満足げな美姫さん。

お父さんが「えっ?」と首をかしげる。

 

「田中さんの“頼まれごと”……してたの?。田中さんには一応は“わかりました”と伝えてたけど…。今回の“頼みごと”は、ちょっと無理かなって思ってた。」とお父さんが言うと、美姫さんは何も言わずニッコリと微笑んだ。

 

そして「給料泥棒は“願いごと“が、叶ったからよかったね。マンションが隣にあるのが嫌だったんでしょ。だから、給料泥棒が引っ越しすれば私のミッション成功じゃない?。で、給料泥棒は、何か言った?」と美姫さん。

「いや。最近、ゲッソリしてな……。誰にも言わずに引っ越ししていったよ。」とお父さん。

「ふぅ〜ん。」と意味ありげな美姫さん。

 

「なにをしたの?美姫さん」と僕が恐る恐る聞くと

 

「A secret makes a woman woman……」と美姫さんが言った。*1

 

僕は瞬きをバタバタするしかなかった。

 

おわり

 

 

 

*1:ある漫画の登場人物の女性が言う言葉~女は秘密を着飾って美しくなるんだから~