第155話 マイファミリー
前回のお話 ➡ 真実はいつもひとつ?
「ちょちょちょっとまって。」と僕はお父さんとお兄ちゃんをダイニングテーブルの椅子に座らせる。その向かいに僕が座る。
「あのさ、急にお兄ちゃんが出てきたらビックリするし、意味わからないし。」と僕が言う。
お父さんとお兄ちゃんが、顔を見合わせる。
そして「あぁ。」と言い、「賭けをしてたんだよ。」とお父さん。
続けてお兄ちゃんが「そう、ショウが俺の事を覚えているかの賭け。ショウが覚えて無かったら母さんの勝ちで、ショウが覚えてたら俺の勝ち。」
「でも、なんでお父さんは教えてくれなかったの?」と僕が聞くと
「そりゃ、美姫さんにお父さんがショウに教えた事がバレたら、大変な事になるだろう。」とお父さんがすまなそうな顔をする。
うん。それはわかる。
「じゃぁ、写真とかは何でないの?僕のはたくさん飾ってあるのに」と僕が聞くと
「家を出る前日に俺が全部シュレッダーにかけた。個人情報だからな。もしもの為に」とお兄ちゃん。
「そうだったのか。美姫さんがものすごく怒ってたぞ。『ユウの写真はどこにあるのよー!!』って」とお父さん。
「それ、みたかったなぁ」とお兄ちゃんが笑う。
「ユウ、痕跡も残さず出て行ったからな~」とお父さんが言うと
「【立つ鳥跡を濁さずってね】」とお兄ちゃん。
使うとこ、間違ってるような。
「よく、家を出れたね。」と僕が聞く。あの美姫さんが許したのが不思議だ。
「ジャンケンに勝ったからね〜」とお兄ちゃん。
あぁ、なるほど。ジャンケンは、運命を変えるよね。
「でもなんで、家を出たの?」と僕
「【いきり】たかったからかな。ほら、人生にはやらなきゃいけない時期があるだろう。それがあの時だった。」とお兄ちゃん。
僕は何となく理解した。【いきり】で家を出た意味は分からないけど。
本当にお兄ちゃんだったんだ。
お兄ちゃんが欲しかったから、本当にお兄ちゃんができて嬉しさでニンマリとしてしまう。
その僕の表情を見てお父さんが
「ユウが帰ってきたから、夕食は外に食べに行くか~」と言った。
その声を聞いて美姫さんがソファからのそっと起き上がった。
そしてお兄ちゃんと同時に「寿司」と言った。
声がシンクロした。
僕はゾゾゾとする。美姫さんが二人いるみたいだ。
僕たちは早速支度をし、お寿司屋に向かう。
「あっ。大蔵省に電話しなきゃ。」と美姫さん。
「美姫さん、大蔵省はいつの時代だよ。今は、キャッシュレスだよ。さっきじいちゃんとこ行ったときに声を掛けたから、時間と場所を言えば大丈夫。GPpayに*2登録しました〜」とお兄ちゃん。
「おぉっ。仕事が早いですね~。」と美姫さんは言い、おじいちゃんにメールを送る。
美姫さんがメールするとすぐに返信がきた。
どうやらおじいちゃんとおばあちゃんは、美姫さんのメールを待っていたようだ。
お寿司屋さんにつくとまだ早い時間だったので、すぐに席に通された。
最近できた、わりと人気のお寿司屋さん。
席はまだぼちぼちと埋まっているかんじだった。
飲み物と料理と注文をし、待っているとおじいちゃん達がきた。
「急にユウが家にきたから、新しい詐欺かと思ったよ。それにしても久しぶりだな。」とおじいちゃん。
「7年ぶりかな?」とお兄ちゃん。
「どこをプラプラしたたんだ?」とおじいちゃんが聞くと
「いろいろ。面白かったよ。」とお兄ちゃん。
「高校もいかずにな。」とお父さんが突っ込む。
「高校行くより、面白いかなぁって思って。」とお兄ちゃん。
そんな話をしていたら、料理と飲み物が運ばれてきた。
僕たちが食事をしていると、時折甲高い声を出している人たちが耳についた。
席は満席になっていて少しざわざわしていたが、そのグループはそのざわざわより一段と高い声で話している感じだった。
話しているというよりは騒いでるという感じ。その声はどんどん大きくなる。
みんながチラチラ見ている。
僕も気になり目を向けると食事をしているというより、写真を撮ったり動画を撮ったりしていた。
僕はそっと美姫さんの方を見た。
美姫さんの顔が怖い。何もなければいいけど。
と僕が思ったその時、僕たちの隣の席にいた赤ちゃんが泣きだした。
寝ていたのに甲高い声にビックリして泣き出したらしい。
ゆっくりとご飯を食べていた隣の人たちは、慌てて赤ちゃんを泣き止ませようとする。
―― ヤバイ。美姫さんが怒るぞ。
すると、お兄ちゃんが立ち上がりそのグループの方へ行った。
そして「〇△◇×?%$〇&△※+=」と訳の分からない言葉でその人たちに何かを言った。
そのグループの1人が「何言ってるのこいつ。意味わかんない。」と不審な表情をする。
それでもお兄ちゃんの訳の分からないは言葉攻撃は終わらない。
変な人に怖くなったのか「早く食べて出よ。気持ち悪いよこいつ」ともう一人が言い、大人しく食事を始めた。
お兄ちゃんが席に戻ってきた。
お兄ちゃんは何事も無かったかのように食事の続きを始めた。
「お兄ちゃん。あれはどこの国の言葉?」と僕がこっそりと聞くと
「あれはな。兄ちゃんが考えた猿語だ。店の壁の張り紙に【写真・動画撮影はご遠慮ください】って書いてあるのがわからない人種だからな。どこの国の人かなと思ってたら『キャッキャッ』って何言っているのかわからなかったから、猿かなと思って。」とお兄ちゃんは満面の笑みを浮かべた。
するとまた聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あなたたち、自分に理解の出来ない事は気持ち悪いの?」と今度は美姫さんがさっきの人たちのとこにいた。
「何このおばさん。」とひとりが言うと
「さっき、写メとか動画撮ってたでしょ。スマホ貸して」と美姫さん。
「なんでアンタにスマホを渡さないといけないの」と、その人たちは怒りながら言ってきた。
「それに私も映り込んでるかもしれないでしょ。そんなものを変なとこで使われて、私に損害が起こったら、賠償してくれる? 今ここで、スマホからデーターを消すのと身分証明書をコピーして私に渡すのとどっちがいい?」と美姫さん。
その人たちはスマホを差し出した。
美姫さんは、手際よく何かを始めた。
写真と動画を消しているのかもしれない。
しばらく、その人たちに何やら聞きながら、美姫さんは作業をしていく。
そして「はい。コレ。これからはルールは守るんだよ」とその人たちにニンマリと笑顔を見せ、僕たちのとこに帰ってきた。
「ギャー。スマホが初期化されてる!!」と、店内に雄叫びが響く。
誰ともなく店内から失笑が起こった。
美姫さんはというと、何事も無かったかの様に食事の続きをしていた。
おしまい
*2:祖父母がお金を出す事(grandparents payの略)フィクーションの造語