短編小説:ありのママ 【美姫さんvs奇跡】

 

短編小説:ありのママ 

美姫さんvs奇跡

 

それは、突然おとずれた。

「あら、奥さん。奇跡って見たことあります?」と首・手首・耳とアクセサリーを“ドン”と付けた香りの強いオバサマが美姫さんに声をかける。

家に入る寸前だった。

いつもはインターフォン画面で、サヨウナラする人。

美姫さんがスローで振り返る。

えっ?絶対無視して家に入ると思ったのに……。

 

「奇跡なら見たことありますよ。」と満面の笑みの美姫さん。

僕の背中に悪寒がはしる。

その言葉に「あぁ……そう。」と残念そうな顔をするオバサマ。

奇跡を知ってたらいけなかったみたいだ。

 

「ほら、何か悩みは無い?ご主人が育児に参加してくれないとか、家事を手伝ってくれないとか。」とオバサマ。

「いいえ。全く。」と高らかに断言する美姫さん。

残念そうなオバサマ。

 

「身体の具合はどう?夜寝れないとか、疲れがたまりやすいとか。」とオバサマ。

「いいえ。全く。」と、さらに高らかに断言する美姫さん。

 

するとオバサマは「お母さん、いつも疲れてない?ため息が多いとか。」と僕に聞いてきた。

「いいえ。全く。」と即答する僕。

 

美姫さんが疲れてる所もため息をついている所も見た事が無い。

聞く相手を間違っている。

 

「ほら、何かあるでしょ。悩み。」とオバサマは食い下がる。

すると「強いて言えば、家に入れない事でしょうか。」と美姫さん。

 

オバサマの目が大きく見開く。

「そんな事ばかり言うと、罰があたるわよ。」とオバサマ。

「うちにバチはありませんから。」と冷静な美姫さん。

 

美姫さんそのバチじゃないし。うちには打楽器は無いけど。僕はおかしくなる。

 

オバサマはさらに目を見開き、フンと鼻息を鳴らすようにどこかに行った。

 

「何だろうね?」と僕が聞く。

「さぁ?人に悩みがあると嬉しいのかな?変な人だね。」と美姫さん。

 

「そうそう、美姫さんって奇跡体験したことがあるの?」と僕が聞く。

「奇跡体験?そんなのしたことないよ。」と美姫さん。

「だって、さっき『奇跡なら見たことあります』って言ったじゃん。」と僕がいうと

 

「ショウだって見たことあるじゃん。【奇跡】っていう字。習ったでしょ。」とニッコリと美姫さん。

 

あぁ、そういう意味ね。

 

僕と美姫さんは、家に入った。 

 

 

おしまい