短編小説 ありのママ

脳は劣化しません。

第205話 お兄ちゃんvs記憶力

お兄ちゃんは、よく忘れる。

忘れ物もよくする。

お兄ちゃんが出かけた後、お兄ちゃんが持って出掛けるものが、家の中に置いてある事が多々ある。

何かする時だってそう。

「歯磨きしょうっと。」とお兄ちゃんが言って立ち上がって洗面所の方に行ったかと思ったら、直ぐに戻ってきて、僕に「ショウ。兄ちゃん何で洗面所に行ったんだ?」と聞いてくる。

物を取りに行きたい時だってそう

「ペンと紙、ペンと紙、ペンと紙……。」忘れない様にブツブツ言いながら自分の部屋に取りに行くお兄ちゃん。

その様子をニンマリと見ている美姫さん。

そして「ユウ。今日って何曜日だっけ?」と声をかける。

立ち止まり考え込むお兄ちゃん。
「月曜日。」と美姫さんに答えるお兄ちゃん。
そしてまた再び自分の部屋に戻る。

今度は「月曜日、月曜日、月曜日……。」と言いながら。

その様子を美姫さんは、とても満足そうに見ている。

お兄ちゃんは、ただいま受験生だ。

「そんなに忘れっぽくて、受験は大丈夫なの?」と僕が聞く。

するとお兄ちゃんは得意げに
「大事な事と必要な事はちゃんと覚えているから大丈夫。忘れるってのは、どうでもいいから忘れるんだよ。」と言った。

僕は、安心した。覚えていないといけない事はちゃんと覚えているんだ。どうでもいい事を忘れてしまうんだと。

―― 次の日。

「ねぇ、ユウ。何で買ってこなかったのよー。帰りに買ってきてって頼んだじゃない。」と美姫さんがお兄ちゃんに言っている。

どうやら、朝、お兄ちゃんが出かける時に美姫さんが何かを頼んだらしい。

「いや~。聞いてないよ~。そんなの頼まれたかな?」とお兄ちゃんは首をかしげる。

「紙に書いて渡したよ。」と美姫さん。

「紙?そんなのもらったかな?」とお兄ちゃんは、ズボンのポケットに手を入れる。
「あっ、あった。」とお兄ちゃん。

「ほら〜。ユウはホントに忘れっぽいんだから。」と美姫さん。

その時、僕の脳裏にお兄ちゃんの言葉が浮かんだ。

【どうでもいい事はすぐ忘れる】

あぁ、確かに。

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