第112話 美姫さんのプライバシー保護術
美姫さんと二人で歩いているとちょっと強引な勧誘の人に会った。
「すみません。アンケートだけでいいんで。2分もかからないアンケートですから。今、アンケートに答えると、なんと!お子さまにはプレゼントがありますよ!」と男の人。
完全に僕たちの進路を防ぎ、ちょっと威圧した感じを出してくる。
美姫さんの顔色が変わる。
それを見て、僕は何故かワクワクする。
「僕、風船で刀を作ってあげるね!。お母さんは、こちらに座って〜。」と言い、男の人が僕に風船で刀を作ってくれる。
僕は、目がテンになる。
小6が風船の刀を喜ぶと思ってるのか?
このおじさんは、大丈夫なのか?
僕が美姫さんの方をチラッとみると、恐ろしい目をしていた。
そんな美姫さんに構うことなくさっきとは違う男の人が、美姫さんに椅子をすすめ、アンケートに答えさせる。美姫さんは、黙って準備されていた椅子に座り、テーブルに向かってアンケートに答えていた。
ちょっと僕は驚く。
だって、絶対男の人に何か言うかと思ったから。
アンケートに答えた美姫さんは僕に向かって「良かったね~。風船が貰えて。」と無表情で言った。
それを聞いていた男の人は美姫さんの顔を見ることなく、「良かったね。ぼく。刀、カッコいいだろう。大切にしてね。」と言った。
僕は作り笑いをしながら、“このおじさん、大丈夫かな~。”と、だいぶ心配になってきた。
と、テーブルにのっている美姫さんが書いたアンケートを見てみると、最後に名前と電話番号を書く欄があった。名前は……知らない人の名前だった。
僕が美姫さんの方を見ると美姫さんも気づいたらしく、ようやくニヤリと笑った。
そして「どうも。」と言い、その場を後にした。
しばらく歩き、後ろをチラッと見るとさっきの勧誘の男の人達の群れが小さくなっていた。
「美姫さん。誰の名前書いたの?」と聞くと
「私のハンドルネーム。」と美姫さん。
「えっ?ハンドルネーム?。」と僕が聞くと「知らない人に名前を教えたら駄目でしょ。だから、ハンドルネーム。」と美姫さん。
ン?という事は?
「じゃあ、電話番号は?」と僕が聞くと「こうちゃんにかかってきてたしつこい勧誘の電話番号。『目には目を。歯には歯を』って言うじゃない。」と美姫さん。
僕の家には、固定電話がない。理由は、美姫さんがいらないって言ったから。だから、いろいろな書類にはお父さんの携帯電話の番号を書く。そしたら、どこから漏れたのか勧誘の電話がくるようになった。美姫さんが言った電話番号ってそのしつこい勧誘の電話番号だ。
「私の個人情報を風船ひとつで、渡せるか!。箱入りのお饅頭が必要なんだぞ!」と美姫さん。
でも、風船の刀で一番遊んで楽しんでたのは、美姫さんだったよ。
おしまい