短編小説:ありのママ  スピンオフ『とある学生の夏休み』 

短編小説:ありのママ スピンオフ①

とある学生の夏休み

 

ある、暑い夏の日の話だ。

 

今日は夏休み中の補習日。

せっかくの夏休みなのに……と学校を休みたくなる気持ちを抑えつつ、授業を受け終えた帰り道の出来事。

  

いつものように太陽で熱された鉄板のような通学路を歩いていく。

こんなにアスファルトとコンクリートだらけにするから暑くなるんだ……とちょっとムカッとくる。

蝉の鳴く声を聞きながら、夏の終わりはまだまだ来ないとうんざりする。

  

さっさとクーラーのきいた電車の中へ向かおうと急ぎ足で駅に向かう。


駅に着いて運が良かったのは、着いてすぐに電車がきた事だ。

待っている人は他にいなかったので、急いで電車に駆け込む。

やっぱり、電車の中は涼しい。少しホッとする。

 

すぐに電車がきたのは良かったが、空席は無かった。

朝から、授業で疲れていて座りたかったが、立って待つことにする。

クーラーのない外を歩くよりは、ましだ。

  

電車の中は、少し騒がしかった。

一番の騒がしさを放っているのが、優先席に陣取った女子高生たち。

僕は、優先席にあまり座らない。譲る勇気がないからだ。

だけど僕は、優先席に座るのはいいと思っている。

ただ、譲れればいいと思っているからだ。


でも、女子高生たちの目の前には、妊婦さんや杖をついたおじいさんが立っていた。

優先席以外の人たちは気付いていないのか、クーラーの効いた電車でホッとし寝ているのか、それとも席を譲りたくないから狸寝入りをきめこんでいるのか、誰も譲る様子は無かった。

ー優先席のヤツが譲ればいいだろうー そんな雰囲気を感じ取れた。

 

そんな時、母親と立っていた小さな女の子が、

「ねぇ、ママ。あの席は、身体の不自由な人が座るんじゃないの?」

と不思議そうに首を傾けながら母親に聞いていた。

  

その子のお母さんは慌てた様子で、その女の子に「シーッ。」と首を横に振って言っている。

 

そうだ。そうだよな。あんな小さな子でも気付いてる。

あぁ、僕が注意すべきなんじゃないのか、心の中で自問する。

でも何か言われたらどうしよう、の気持ちの方が大きい。

 

僕が迷っていると、その隣にいた小学生くらいの子の母親らしき人がその小さな女の子に

「あのね、あのお姉ちゃんたちはね、心が不自由なんだよ。」と割とはっきりと

その女の子に言っているのが聞こえた。

  

僕は、思わずクスッと笑ってしまった。

すごく、上手いことを言う人だなぁ、と思わず感心してしまった。

見ると、近くのおじさんも感心した顔をしてクスッと笑っている。

  

すると笑いは伝染していき、立っていた周りの乗客が、今度はその女子高校生達を見ながら、失笑しはじめた。

ペチャクチャとしゃべっていた女子高校生たちは、ようやく自分たちが笑われている事に気付いたらしい。

  

女の子の声も、上手いことを言う人の声も届いていなかったらしく、女子高校生たちは自分たちが何故に笑われているか分からない表情で、気味悪そうに別の車両に移って行った。

 

座っていた人たちもスーッと立ち上がってどこかに行ってしまった。

 

車内の席がほとんど空いた。

「ラッキー。空いたじゃん。」と先ほどの女の人が席に座る。

優先席にも杖をついたおじいさんが座り、妊婦さんは空いた席に座った。

僕も含め、立っている人がほとんど座れた。

 

電車内の空気がホンワカとした雰囲気に変わった。

 

僕は、次の駅で降りたが、不思議な人だった。

でも、1番不思議だったのは、その隣に座っていたその人の子供だと思われる子が

「あのね、世の中にはコワい人もいるんだからね。良い事なんだけど、もうちょっとやり方を考えようよ。」とまるで親子が逆転したかのように親に注意していたことだ。

  

親と子が、あべこべだなぁ。

  

そんなことを考えながら帰路についた。

 

とても暑い日だったけど、なんだか心は涼しかった。

 

おしまい